ハリや整体など民間療法の効果

腰痛(あすへのカルテ)

(1995年3月26日、朝日新聞)

骨盤調整
あんまマッサージ指圧師

うつぶせになった患者のしりに足を乗せ、足首をグッと引っ張る。ひざと腕で患者の体を押さえ、背後から締めつける。

胸と腹を患者の背中にぴったり当て、羽交い締め--大阪市の治療院で、五味勝さん(64)ら10人のスタッフが腰痛患者の治療をしていた。

五味さんはあんまマッサージ指圧師の資格を持つ。父親が考案したという「骨盤調整」という方法で治療を始めて、1995年で27年になる。

椎間板ヘルニア

和歌山市の40歳近い医師が治療院を訪れた。

椎間板(ついかんばん)ヘルニア。右足から右臀(でん)部にかけてのしびれと激痛に耐えられず、家族らに抱えられて、ようやく治療用のふとんに横になるほどだったが、1度の治療でしびれが取れ、1人で苦もなく歩けるまでに回復した。

腰痛の主な原因
関節のずれを直す治療

骨盤の仙骨と腸骨の間に左右1対ある仙腸関節。腰痛の多くはこれがずれて起こると、五味さんらは考えている。このずれを直す。

費用
講習会も開催

初診9000円で、あとは1回4000円。患者は1日100人前後で、九州から来る人もいる。五味さんらは年に10回、骨盤調整の講習会を開いており、約100人が各地で治療をしているという。

カイロプラクティックとは
米国では医療として定着

骨盤や背骨のゆがみやずれを直す治療としては「カイロプラクティック」が有名だ。米国では医療として定着し、カイロプラクター(整体師)養成の専門大学がある。6年間勉強し、資格試験を通らないと開業できない。

日本カイロプラクティック連絡協議会

国内でもこの治療をめざす施設は多い。主要12団体でつくる日本カイロプラクティック連絡協議会によると、協議会関係の治療者だけで約7000人、他団体も合わせれば100団体はあるという。

公的な資格はない

しかし、あんまマッサージ指圧師や鍼灸(しんきゅう)師のような公的な資格はない。「医学的な知識が乏しい」などと批判されたり、数回の講習で開業できることを売り物にする団体があったりする。

「歩行障害を起こした」と損害賠償を求められたり、「免許なしでX線撮影をした」と摘発されるなど、たしかに問題も起きている。

病院への不満
湿布と痛み止めを処方されるだけ

しかし、「1日がかりで病院へ行っても、湿布薬と痛み止めを出されるだけ」「手術してもよくならない」などと、病院への不満から頼る患者は少なくない。

民間療法の根強い人気
現代医学と民間療法が共存するには

民間療法の根強い人気について、小野啓郎・大阪厚生年金病院長(整形外科)は「最新の検査や手術でなければ、どうにもならない腰痛もある」としたうえで、次のように指摘する。

「最先端の画像診断でも痛みが見えるわけではない。患者の体に触れ、突っ張った筋肉をもみほぐしながら痛みを和らげる治療方法が、功を奏することも少なくない。現代医学と民間療法が正しく共存する道を探る必要がある」

気功
一瞬で左右の肩甲骨の位置がそろった

「気功」も民間療法のひとつ。兵庫県西宮市の指圧師、花岡晴一郎さん(55)は1985年、10年ほど前から、患者に「気」を送っている。記者も試してみた。

「右と左で肩甲骨の高さが違うでしょう」と、記者の背中を映すビデオ画面を指さした。そのあと、記者の目の前に手をかざして「はいっ」。一瞬で左右の肩甲骨の位置がそろったときは、なんとも不思議な気分だった。

体は自然に治ろうとしている

「気を送ることは無心になること」と花岡さん。「体は自然に治ろうとしている。私にできることは、そのきっかけをつくることです」

活力がわく

患者の女性(70)は「股(こ)関節が痛くて、夜はうずいて眠れなかった。気を送ってもらうと温かくなる。帰るときは活力がわいてきます」と話した。

健康ベルト
手軽さが人気

手軽なのがベルト。市川宣恭・大阪体育大教授考案の「イチカワ健康ベルト」は伸縮性のないナイロン製。腹筋や背筋を支え、動くたびに腹圧がかかって筋肉を鍛える。空気を注入、筋肉を柔らかく支える製品もある。

ビタミン剤
ビタミン類を許容限度まで含む

腰痛や神経痛などの治療効果をうたうビタミン剤。エスエス製薬(本社・東京)の「エスファイトゴールド」は、神経に関係するビタミンB1、B6、B12を許容限度まで含むという。薬用植物の成分を含む湿布薬の開発などにも製薬業界は力を入れる。

入浴剤
血行をよくする

ツムラ(本社・東京)が腰痛や肩こり対策で開発した入浴剤「バスクリン・リライフ」は、ウンシュウミカンの果皮を乾燥させた陳皮(ちんぴ)などを含み、血行をよくして痛みを和らげるという。

健康グッズ

このほか、ストレッチや筋肉強化に役立つ運動機器、患部に張る粘着テープ、歩行時にかかとに伝わる衝撃を吸収する靴の中敷きなどもある。

薬では治りにくい頭痛や肩こりに鍼灸師

老化病治癒と自然治癒力

(1992年10月6日、産経新聞)

脊椎の異常を治す

元会社員 64

(大阪府堺市)

長年、肉体を酷使してきたため脊椎(せきつい)に異常をきたし、頭痛、肩こり、腰痛などで悩まされ、数年前から鍼灸(しんきゅう)整骨院で治療を続け、日常は困らないまでに回復できましたが、同様な脊椎(せきつい)に異常をきたした症状の人たちが多く来られます。

高齢による病気
医療薬では抑えられない

高齢によるこれらの病気は、細菌やウイルスによって起きる感染症のように、抗生物質やワクチンといった進歩した医療薬で抑えられる病気ではありません。

頭痛、肩こり、腰痛、胃弱
老化や不健康な生活、ストレスなどが原因

頭痛、肩こり、腰痛、胃弱、神経症などといった病気は、老化や不健康な生活、ストレスといったさまざまな要素が積み重なり、人間の体が本来もっている〈自然治癒力〉が衰えてきて起きるのです。

指圧、カイロプラクティック、低周波治療

高齢化に伴い、老化病、体質病、慢性病といった病気がふえ、薬では治りにくくなりつつあります。これらの病気には、長い歴史や経験に基づく鍼、灸(きゅう)、指圧、カイロプラクティック、低周波治療といった治療法が、体内の新陳代謝を高め、自然治癒力を回復させ、体の異常を克服することで効力を示すことになるのです。

柔整師

治療には鍼灸師、柔整師の指示に従い、根気よく治療をうけること、早期治療を心がけることです。

腰痛は東洋医学の得意な分野

(1994年5月27日、朝日新聞夕刊(大阪版))

手の技だけでの治療

治癒能力を引き出す

大阪市にある中国整体医学研究所を訪ねた。

「整体というと荒っぽいイメージがありますが、そんなことはありません」と、中国整体医学研究所の賀希臨(が・きりん)さん(38)。

症状をやわらげるのが基本

診察室は病院ふうだが診療機器が見当たらない。道具を一切使わず手の技だけで治療する。もむだけでなく、手のひらをころがしたり、押したり。筋肉や骨格に刺激を与えて血行を良くし、症状をやわらげるのが基本。だれもが持っている自然な治癒能力をうまく引き出すのが目的だ。

ツボを押さえていく治療

おっかなびっくり診察台にうつ伏せになると、背骨にそってツボを押さえていく。「腰の筋肉は硬いですねえ」。顔は笑っているが手付きは容赦ない。

腰椎(つい)矯正

4、50分うなっていたら、今度は腰椎(つい)の矯正。横向きにさせられ、足を体の後ろの方に折り曲げる。ボキボキッ。腰から背中にかけて関節が音をたてる。痛みはないが音に驚いて飛び起きた。

そもそも人間の背骨は、体にかかる衝撃をやわらげるためS字形に湾曲していなければならないのだが、私の胸椎と腰椎は、真っすぐに近い。このため腰への負担が大きくなって、時々痛みがくるとのことだ。

東洋医学と西洋医学の違い
表面に出てきた症状を抑える対処療法

「腰痛は東洋医学の得意な分野」と賀さんは胸を張る。

痛ければ、鎮痛剤を飲ませたり、患部に注射をしたり。骨が曲がっていれば、引っ張って伸ばす。それでもだめなら手術。そんな具合に、西洋医学は、表面に出てきた症状を抑える対症治療法が中心。

東洋医学は西洋医学では見つけられない症状にも対応可能

これに対して人間が自然にもっている力を助ける東洋医学によれば、X線検査などで見つけることができない症状にも応じられる、というわけだ。

病院にとって腰痛患者とは
お金にならない

病院にとって、腰痛患者は、決して割のいい存在ではない。薬を与えたり手術をするなどお金になる治療よりも、体操や日常生活の指導などの労多くして益の少ない地道な治療の比重が大きいからだ。

腰痛患者の心理
相談にのってもらいたい

一方、患者も、診察まで何時間も待たなくてはならない病院よりも、予約制で、時間をとって相談にのってもらえる鍼灸(しんきゅう)やカイロプラクティックに期待を寄せるのも道理。

大阪大医学部 内田淳正
副作用や骨折などのリスク

だが、多くの専門医は「民間療法だけで腰痛の根本的な解決は難しい」という。「保険がきかないうえ、副作用や骨折など危険もつきまとう」と大阪大医学部の内田淳正講師(整形外科)は指摘。民間療法をすすめる医師はあまりいない。

骨粗鬆症

たとえばカルシウム不足で骨がボロボロになる骨粗鬆症(そしょうしょう)の場合、病院できちんとX線検査をしてもらわないと、正確な診断はできない。腰痛は、骨や関節だけが原因とは限らない。尿路結石など泌尿器の病気、胆石症、女性なら子宮筋腫、悪性しゅようの可能性だってある。こうした病気は、専門の医師にみてもらうのがベストだ。

病院へ行くタイミング

病院は、最初と最後に行くところ。すなわち、症状が出たときの検査と、どうにもならなくなったとき手術を受けるのが病院、と考えるのはどうだろう。

腰痛とうまく付き合う
治ったらもうけもの

一方、その他のところでは、治療というより「腰痛とうまく付き合うコツ」を実践を通してアドバイスしてもらい、治ったらもうけものくらいに思ったらいかがなものか。

本人のやる気次第

後は、治る、治らないは本人のやる気しかない。つきなみではあるが、専門家に教えてもらった腰痛予防のコツをいくつか。

腰痛予防
筋力をつける

体操やトレーニングで骨をがっちり受け止められる筋力をつける▽中腰の動作をひかえ、いつも自然な姿勢で▽過労にならないように十分な休息をとる▽体が沈むベッドや、腰に負担がかかるカカトの高い靴ははかない。

「温按法」とは~身近なものを活用しよう

【働きざかりの健康講座】肩こり(4)温めて筋肉をほぐす

(1995年11月16日、産経新聞)

もちと同じ原理

「もちを火にかけるとやわらかくなるように、筋肉をほぐすためには人間の体も温める必要がある」

肩こり解消策
「温按法」のすすめ

肩こり解消策として指圧やマッサージ以外に東京・築地の阿部鍼灸指圧施術所所長、阿部昇弘(のぶひろ)さんは「温按法」を勧めている。これも職場や家庭で簡単にできるものだ。

たばこ灸

まずは「たばこ灸」。「たばこは『百害あって一利なし』といわれますが、体に役立つこともある」と阿部所長。

肩がこっている部分にたばこの火を近づける。熱く感じたら少し離して、再び近づける作業を何回か繰り返せば、痛みが取れるという。

相手にたばこ灸をすえるときは、肩こりのツボの部分にたばこを持っていない方の親指と人さし指を置き、両指の間にすき間をつくる。すき間は「たばこ2本分の幅」が適当。指を置く理由は「相手と熱さを共有すれば、熱さの加減がわかる」(阿部所長)ためだ。あとは一人ですえる場合と同じ方法を繰り返す。

ドライヤー

また、ドライヤーを使う方法もある。肩こりをほぐすためには、「血液の循環を良くして、筋肉の中の疲労物質を早急に排除することが肝心」(阿部所長)で、その前段として肩こり部分を温めることが大切だ。

患部にドライヤーの温風を当てながら親指で押したりもんだりする。熱過ぎれば離せばいいわけで、これまた実に容易な解消法といえる。

使い捨てカイロ

さらに、使い捨てカイロも十分活用できるという。軽い肩こりの場合は、その部分に乗せるだけでOK。やや重い症状であれば、カイロの上から押したり、もんだりするのも効果がある。ただし、阿部さんは「長時間使う場合は、地肌を避け、タオルで包むこと」と注意を促している。

冷え性の肩こり
足浴が効果的

ほかに、冷え性から肩こりになった人には足浴が効果的だ。大きめの洗面器にお湯を注ぎ、両足首までつけて温めると肩がほぐれるという。お湯に塩や唐がらし、大根の葉などを入れるとさらに効くそうだ。

国際的にも高まる手技療法の評価

ツボの刺激で血流回復 しくみ研究進む(はり・きゅうと手技:上)

(1999年2月14日、朝日新聞)

手技療法
柔道整復やカイロプラクティックなど

腰や肩の痛みなど、治りにくい症状の改善に、はり・きゅうのほか、柔道整復、カイロプラクティックなど、いわゆる手技療法が注目されている。これまでは、伝統はあっても有効性の証明が不十分なため、医師の信頼も乏しく一部の病気治療の補完にとどまっていた。しかし、最近は有効性を示唆するデータも増え、国際的にも評価が高まってきつつある。これらの治療法の現状をのぞいてみよう。

明治鍼灸(しんきゅう)大学付属京都駅前鍼灸センター

長野県松本市のAさん(75)は月2回の治療を楽しみにしている。亡くなった妻の供養にと、好きな京都、奈良巡りも兼ねて車を運転、JR京都駅に近い明治鍼灸(しんきゅう)大学付属京都駅前鍼灸センターに寄る。

大量の汗、血圧も正常に

1998年夏、全身に大量の汗をかくようになった。病院の薬を飲むと、めまいがする。テレビで見た京都府日吉町の明治鍼灸大学病院に足を運んで受診、その後、このセンターの常連になった。2、3回でかなり治り、低かった血圧は正常に。風邪もひかなくなった。今は、すっかり、はり・きゅうファンだ。

治療の進め方
まずは体調の確認

いつもセンター主任の芳野温・助教授(臨床鍼灸医学)が担当する。芳野さんは仰向けに寝たAさんの舌を診て、体調を聞く。

きゅうとはりをツボへ

話しながら手首や足のツボにきゅうをすえる。使い捨ての細いはりを、頭、腹、手首のツボに刺す。次は、うつぶせの背中に、といった具合で、終わったのは約1時間後。「さっぱりしたな。体が軽くなった」と、Aさんは上着を着た。

薬を使用しない
不快な症状を抑える

はり・きゅう治療は、薬を使わずに痛みや不快な症状を抑える。

生体調整物質が分泌

これが効くしくみについても最近は研究が進んだ。はり・きゅうの刺激によって血液の循環がよくなり、痛みを抑える鎮痛物質をはじめ、さまざまな生体調整物質が分泌されることが確認されている。

患者が集中するトップスリー
腰痛、肩こり、ひざ痛

「患者が集中するのは、病院でなかなか治らない腰痛、肩こり、ひざ痛の3つ」とセンター長の矢野忠教授(臨床鍼灸医学)。

これらの場合、筋肉を回復させるため運動療法を併用することが多い。

腰痛の原因

腰痛には、背骨や周囲の筋肉、神経が原因のものと腎臓など内臓が原因のものがある。はり・きゅうは前者に向いている。かなり痛むものでも週1、2回のはり治療で改善する。

肩こりの原因

日本人に多い肩こりは、首から背中にかけて筋肉が部分的に硬くなり、血液の循環が悪くなる。今は若い人でも珍しくない。矢野さんらが1997年に京都府の高校生約5800人を調べたら「こる」が65%、「こらない」が35%だった。

明治鍼灸大学病院
佐々木和郎・助教授

明治鍼灸大の佐々木和郎・助教授(健康鍼灸医学)によると、肩こりにも内臓からくるものと、整形外科的なものがある。首や肩のまわりのいろんな異常が引き金になるが、多いのは不自然な体位や姿勢の悪さからくるものだ。

痛く感じるツボにはりを刺す
内臓のツボにも対応

押して痛く感じるツボにはりを刺して緊張をとり、血流をよくする。内臓が原因なら内臓のツボも加える。

薬物とはりの比較試験
はりが優勢

佐々木さんたちが中高年の肩こり患者を対象に薬物とはりの比較試験をしたところ、薬物で治るのは20-30%だったが、週1回のはりは80%と高かった。

変形性ひざ関節症
病院では水を抜くだけ

高齢者に多い変形性ひざ関節症は、病院ではたまった水を抜いて痛み止めを処方するぐらいだ。

はりときゅうのツボは共通

はりときゅうは、はりで物理的に刺激するか、熱で刺激するかの違いだけで、ツボは共通する。一般に炎症性の痛みははり、冷えて痛む時はきゅうがよいとされる。

はり、きゅうとも多くの種類とやり方がある

芳野さんによると、はり、きゅうとも、多くの種類とやり方がある。

はりは極めて細く、皮膚に刺しても全く痛みはない

はりは極めて細い(一般的なのは直径0.2ミリ前後)ので、皮膚に刺しても全く痛みはない。怖がる人向けには、はりの代わりに電流で刺激する経皮的ツボ通電療法がある。両方合わせて、刺したはりの先から電流を流す方法などもある。

直接きゅうと間接きゅう

米粒の半分の大きさ以下のもぐさをツボの上に置いて燃やす直接きゅうは、ふつう3-7回繰り返す。ツンとくる痛みがあり、皮膚にやけどの跡がつく。

跡がつかないよう、火を皮膚から離したり、間にほかのものを挟む間接きゅう、はりの頭にきゅうを置くタイプなどもある。

ツボとは
鍼灸医学の経穴

鍼灸医学では皮膚表面と内臓を結ぶ情報伝達系の道(経絡)があると考えられており、その上の特定の場所がツボ(経穴)。内臓の異常などはツボに現れるので診断や治療の場所になる。骨のへり、筋肉の間のへこんだ部分が多く、神経や血管が密集していて電気が流れやすい場所とわかっている。主な経絡は20、ツボは約700といわれるが、世界保健機関(WHO)が認めるのは14経絡361経穴。

ホリスティック医療

代替医療、注目浴びる(その2)人間全体を丸ごと診る 

(2000年7月19日、毎日新聞)

ホリスティック医療
患者自身が治療法を選択

ホリスティック医療--人間全体をまるごと診る

自分に合った療法、患者が選んで

代替療法
人間全体を診る

新しい医療として「ホリスティック医学」が注目されている。これも広い意味で代替療法の中に入る。ホリスティックは全体という意味で、病気の部分だけでなく、人間全体を丸ごと診ていこうという療法だ。

ホリスティック医療の好例
赤坂溜池クリニック

ホリスティック医療を実践している好例が東京都港区赤坂にある「赤坂溜池クリニック」だ。開設したのは日本ホリスティック医学協会理事で医師の降矢英成さん。非常勤も含めスタッフ約20人が、西洋医学とは異なるさまざまな代替療法を行っている。

帯津三敬病院(埼玉県)
帯津良一院長

訪れる主な患者は、うつ病、不眠症、過敏性腸症候群、自律神経失調症、更年期障害などが多い。月に1度、赤坂溜池クリニック医学協会会長で帯津三敬病院(埼玉県)院長の帯津良一さんが来るため、がん治療の相談にも応じている。

心理療法やオイルマッサージ

採用されている療法は心理療法(カウンセリング、催眠療法など)、オイルマッサージ、呼吸指導、鍼灸(しんきゅう)・指圧、ヨガ、気功、整体、食事指導、アロマセラピー、カラーヒーリング(光や色で心をいやす)、カイロプラクティック(背骨のゆがみなどを直し、肩こり、神経痛などを治す)など、一般の病院では考えられないような療法が受けられる。

うつや不眠症、虚弱体質

例えば、うつや不眠症の人にバレリアンというハーブを飲んでもらうハーブ療法を、風邪を引きやすいなど虚弱体質の人にはピーナツやオリーブオイルなどによるオイルマッサージやヒマシ油の温湿布などを行ったりする。

代替療法は保険が利かない

患者はまず通常の診察を受けてから、自分に合った代替療法を選ぶケースが多い。代替療法は保険が利かず、料金は10分間で1000円。降矢さんは「医師と代替療法のプロが協力して治療に当たっている点が特色だ。通常の診療では血液分析や体内から発する微弱なエネルギーを測る波動診断なども行っている。一般の人も参加できるホリスティック医学の講座も始めます」とホリスティック医療の充実を目指している。

酸化防止、マイナスイオン健康法
電子や原子の動きをみる

電子や原子の動きから、人の健康、食べ物の栄養などを見ていこうという療法がある。医学・栄養学の世界ではまだ市民権を得た考えではないが、臨床的な研究も進み、今後が注目される。

この分野を開拓しているのは、「マイナスイオン水健康術」(主婦の友社)の著書もある東京大学大学院医学系研究科の山野井昇さん。クギを放置すると、やがてクギの電子が失われ、さびていく。肉や野菜が腐敗するのも同じだ。この電子が失われていく状態が酸化だ。酸化を防ぐには電子(マイナスイオン)を与えてやればよい。たとえば、ビタミンC、Eには、酸化を防ぐ作用(抗酸化力)があり、細胞を健康に保つ働きがある。酸化されたものを元へ戻す作用を還元というが、この還元力の高いものを食べれば、健康になれるという考え方だ。

健康医療器具
健康医療器具が販売されている

マイナスイオンを発生させる健康医療器具も売られているが、原理は同じだ。

健康維持

山野井さんは「排ガスで空気が汚れたり、人が病気になったりすると、環境でも体でもマイナスイオンが減ってくる。この電子不足の状態が不健康の根っこにある、というのが私のマイナスイオン健康学の考え方。滝の近くや森林など空気のきれいなところにいると、健康的でさわやかな感じになるのは、ひとつにはマイナスイオンの作用だと考えている」と話す。電子不足をいかに補うかが健康維持の基本というわけだ。

日本補完・代替医療学会

このマイナスイオン栄養学に基づき、健康食品会社のKIPPO(東京)は還元力(抗酸化力)の非常に高い約20種類のハーブでできた健康食品「食べるマイナスイオン」を開発、がん、糖尿病、アレルギー疾患、リウマチ、更年期障害、前立せん肥大などへの効果を見るための研究を進めている。抗がん剤の副作用を抑える働きについても研究を行っており、2000年11月の日本補完・代替医療学会で詳細を発表する予定だ。これから科学的な検証を受け、臨床例をふやしていくことが課題だ。

千葉と整体

[腰痛と向きあう](2)代替医療

(2004年2月10日、読売新聞)

カイロプラクティック治療院

一定の効果、心の支えにも。医療ルネサンスフォーラムを前に

「ここの治療が一番効きますね」

JR船橋駅近くのカイロプラクティック治療院。治療を終えた勝浦市の福祉施設職員の男性(32)はほっとした表情で話した。

白衣姿のカイロ師
整形外科や針灸(しんきゅう)院

ビル2階にある治療院には3台のベッドが並び、白衣姿のカイロプラクティック師(カイロ師)が世間話をしながら患者の背中や腰を両手で押している。午後6時を過ぎると、待合室は仕事を終えた会社員でいっぱいだ。

男性は地元でも整形外科や針灸(しんきゅう)院に通っているが、月に2回、船橋市内にある実家に帰るたびに、この治療院に立ち寄るという。

病院では「原因不明」

腰痛に悩まされるようになったのは1997年の7年ほど前。整形外科で診察を受けたが、「原因不明」の診断。湿布薬を張ってもらい、牽引(けんいん)治療を始めたが「痛みは取れず、不満を感じた」という。あちこちを回った末、この治療院と出合った。「来るたびに痛みが癒えます」と、ほぐれた腰をさすった。

慢性腰痛
マッサージ

腰痛の約8割は、原因が特定できない「慢性腰痛」とされる。西洋医学の“限界”にいらだち、カイロプラクティックや針灸、マッサージなどの「代替医療」を受ける患者は多い。それが一定の効果を上げていることも確かだ。

日本カイロプラクティック機構

カイロ師らでつくるNPO法人「日本カイロプラクティック機構」(東京、村井正典理事長)によると、カイロプラクティックを看板に掲げる治療院は全国に1万5000以上。国家資格はなく、開業に際しても届け出は不要だ。発祥地・米国で十分な教育を受けたカイロ師のいる治療院がある一方、短期間の研修を受けただけのカイロ師もいるとされ、トラブルもある。

カイロ119番電話相談室

日本カイロプラクティック機構が設けている「カイロ119番電話相談室」には、「布団を売りつけられた」「痛みがひどくなった」といった電話が少なからず寄せられている。理事長の村井さんは「どこでも安心して治療を受けられるよう、資格の導入も必要」といい、準備を進めている。

国家資格が必要な針灸治療でも、針灸師が誤って患者の肺に穴をあけてしまう事故や細菌感染などが報告されている。針治療を取り入れている鎌ヶ谷市の整形外科医、鈴木弘祐さん(66)は、「解剖学などの十分な知識が必要」と指摘する。

患者の心の支えでもある

トラブルも一部にあるとはいえ、代替医療が腰痛患者から支持されるのは、患者の心の支えになっているからでもある。

つぼを探し、針を刺していく

「きょうはここが痛いんです」。柏市の「統園鍼灸(しんきゅう)院」の診察室で女性患者(38)が腰をさする。院長の市野統園さん(43)が、「ああ、ここね」と優しい手つきでつぼを探し、針を刺していく。1999年、5年前の開業以来の付き合いというこの女性は、「私の訴えを聞いてくれる」と通い続ける理由を語った。市野さんは「訴えに耳を傾け、大いに共感することが大切です」と話す。

代替医療へ流れるワケ
福島県立医大病院の菊地臣一副院長

痛みを取ってほしいと訴える患者に対し、医師は「レントゲンで診ても何もないから問題ない」と答える。「これが代替医療へ流れる原因」と、医師向けに腰痛治療のあり方を教えている福島県立医大病院副院長の菊地臣一さん(57)。「『そうですか、大変ですね』と患者に向き合う。医療もそこから始めなければ」と自戒を込めて語った。

〈メモ〉カイロプラクティック 脊柱(せきちゅう)や骨盤などのゆがみを矯正することで健康を回復させ、自然治癒力を高める治療。1895年にアメリカで生まれた。現地では開業に際して、国と州の資格を取る必要がある。日本カイロプラクティック機構によると、日本での1回の治療の費用はおおむね3000-5000円。

オステオパシー整体 心身共にリラックス

体がしんどい人は心もくたびれている/大阪

(2000年5月20日、毎日新聞)

オステオパシー
自然治癒力を回復させる

肩凝り、腰痛、不眠、ストレスなど、体や心が疲れてリラックスしたい人や、カイロプラクティックや整体を試してみたいけど痛そうで不安……という人に朗報。ウィメンズセンター大阪(城東区蒲生1)で福井幸子さん(53)が行っているオステオパシー(手技療法)を取り入れた整体は、体にやさしく自然治癒力を回復させることができる。記者も体験したオステオパシーを紹介する。

ウィメンズセンター大阪
女性鍼灸師

ウィメンズセンター大阪は、女性の体や性に関する不安や悩み、女性が“女性であるがために”社会の中で感じる生きにくさなどを語り合ったり、相談できる場。カウンセリングや電話相談のほかに、「女のためのクリニック」として、鍼灸(しんきゅう)治療や整体なども行っている。福井さんも以前は一会員として、ウィメンズセンター大阪の女性鍼灸師の治療を受けていた。そして47歳の時に小学校教師を辞め、整体を教える学校に入学。中国式整体やカイロプラクティックなども知ったが、力がなくてもできるオステオパシーに目が向いた。

筋膜解放、内臓整体
うつなどの精神症状にもいい

「整体って力づくでバキバキやるっていうイメージがあるでしょう。オステオパシーはソフトなんです」。主な治療法には、筋肉を収縮させてから、ゆっくりと元の状態に戻すことで痛みを取る「筋膜解放」、外から触って内臓の動きを整える「内臓整体」、脳せき髄液の循環をよくする「頭(とう)がい仙骨治療」などがある。

「頭がい仙骨治療」は、頭がい骨の縫合に注目し、縫合の開閉を一時的に止めたり、縫合をゆるめたりする独特の治療法。自律神経のバランスを整えるので、体の症状だけではなく、うつなどの精神症状にもいいという。私の場合は、横になって、施術が始まってしばらくすると眠ってしまった。終わった直後はかなりリラックスしていた。

カウンセリング
電話相談員

「体がしんどい人は心もくたびれていると思うんです。利用者には何も考えずにリラックスしてほしい」という福井さんは昔、鍼灸院でセクハラともとれる体験をしたことがある。「女性の体のことは女性の方がよく分かる。安心して治療を受けられる場が必要です」。利用者の中には施術中に、自分が抱えている問題などを吐き出す人もいて、時にはカウンセリングになってしまうこともある。ウィメンズセンター大阪で電話相談員としても活動している福井さんは、心身両面のしんどさを受け止めるように心掛けている。